視覚障害者の相互扶助を目的とした「座」の組織は、座頭市でもお馴染みだが、これを創設したのが、本書の主人公・明石覚一である。また、覚一は、平家琵琶の名手であったが、単なる一演奏家には終わらず、バラバラに伝承されていた平家物語の語り本を、「覚一本」として集大成するといった偉業を成し遂げている。彼は超一流の芸術家であったと同時に、足利尊氏との縁故を活かして、先進的な福祉制度をいちはやく日本に取り入れた、有能な政治家でもあったのだ。南北朝動乱のさ中、逞しく、かつ誇り高く生き抜いたスーパー障害者の人生を、現代の明石覚一とも言える著者が、渾身の筆致で描く。
田中優子氏(法政大学総長)推薦
【梗 概】
足利尊氏の縁者という高貴な身分に生まれながら、幼くして視力を失った明石覚一は、自ら琵琶法師の道を選ぶ。厳しい修行に明け暮れる中、地下の琵琶弾きや傀儡、漂泊する芸能民たちとも交流を重ね、社会の底辺にいる人々の暮らしぶりを目の当たりにする。やがて覚一は天下随一の琵琶の名手として名声を高め、御前演奏、すなわち天聴の栄に浴することとなる。磨き抜かれた至芸に感じ入った天皇より、「何か望みがあれば」と御簾の内より御言葉を賜るが、その時覚一が願い出たものは、地位でも所領でもなかった……
出生時脳性マヒにより、身体及び言語に障害をもつ。身障者同人誌「しののめ」を創刊し、俳人・文筆家として活躍。作家
以外にも、独自の芸術領域を切り開いた陶俳画や、ゑびす曼陀羅(日本障害者文化史絵巻)のプロジェクトなど、多彩な活
動を展開。俳人協会全国大会賞受賞、萬緑賞受賞、ヤマト福祉財団小倉昌男賞特別賞受賞、国際障害者年日本推進協
議会(現、日本障害者協議会:JD)副代表、総理府障害者対策推進本部参与、城西国際大学講師。