毎日新聞に書評が掲載されました。(2020年4月21日)

2020/04/25

読書日記

著者のことば 広瀬浩二郎さん 違う知覚の可能性を

 

■触常者として生きる 広瀬浩二郎(ひろせ・こうじろう)さん 伏流社・1540円

日本宗教史・文化人類学を専攻する全盲の国立民族学博物館(みんぱく)准教授が、自ら提唱する「触文化」論を展開した近年の文章を集めた。「東京オリンピック・パラリンピックや秋にみんぱくで開く『触文化』の特別展を前に、議論をまとめ直してみました」

「触文化」とは、単に視覚障害者の文化という意味ではない。かつての琵琶法師のように、近代化以前の世界では、視覚や文字に頼らない芸能文化が発達してきた。「その可能性を『見常者』(健常者)にも開きたい」との思いがある。

「最近は、 見常者の側から『触常者』(視覚障害者)を取り巻く世界を描く試みもあります。大きな前進で、よいことだと思う」。だが、それだけでは、「『私たち』健常者が『彼ら』障害者を見に行く、というスタンスでしかない」。

例えば、学校の体験授業でアイマスクをしたり車椅子に乗ったりして「不便さ」を知るのは、「彼ら」を体験することにすぎない。「もう一歩進んだ『追体験』をしてほしい」。目が見える人は、普段、ものを見て対象が何かわかったうえで触る。触常者は、「冷たいな。この容器の形は……。アイスクリームか」と触りながらものを認識する。「視覚を使えない体験ではなく、使わない体験をしてほしい。不自由の確認ではなく、普段とは違う知覚の使い方を知る」。そんな思いで、学校などで「触るワークショップ」を開いてきた。

13歳で失明、1987年に初の全盲の京大生となり、歴史研究者として歩もうとした。みんぱくへの就職は偶然だ。「博物館は視覚優先文化の象徴的な場。僕には、中高の博物館や美術館見学で楽しかった思い出もありません」。だからこそ、「触る展示」や音声展示などを組み合わせた「触文化」の拠点、「ユニバーサル・ミュージアム」を構想している。

「僕は研究者でありつつ博物館の展示を企画する側にいますが、世界的に、全盲者の学芸員はほぼ皆無です。その立場にいるからこそ、見常者には『見えないからこそできることがある』と知ってほしいし、マイノリティにもチャレンジしてほしい、と呼びかけたいのです」

文と写真・鈴木英生 伏流社・1540円

 

 

 

?>